ジャンダルムで揺れた鎖の音

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山と地質と街道とフィルムカメラのブログ 月1回更新

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登山依存症

最近山でバテることが多くなってきた。原因は色々あるだろうが、一番は歳をとってきていることだろう。私は現在28歳だ。まだまだ若いのかもしれないが、20代前半の頃と比べると、運動量がさほど変わらないにも関わらず、明らかに体力が落ちている。体力が落ちた状態で山に行くと、とにかくつらい。もう2度と山になんて登らないと心に決めることはもちろんのこと、日常生活で階段を登ることもやめようと決意してしまうほどである。しかしその決意はすぐに失われる。山を降りると辛かったことなど忘れて楽しかったような気がしてくる。そして気づくと再び山にいて、辛かったことを思い出すのだ。そのループをひたすら繰り返し、自分の学習能力の低さに愕然とする日々が続く。やめようと思ってもやめられないのだ。そして気づいた。あれ、これって依存症か。

依存症とはどのような状態を指すのだろうか。厚生労働省によると以下の通りである。

 

「依存症」とは
依存症は、日々の生活や健康、大切な人間関係や仕事などに悪影響を及ぼしているにも関わらず、特定の物質や行動をやめたくてもやめられない(コントロールできない)状態となってしまいます。依存症にはアルコールやニコチン、薬物などに関連する物質依存症とギャンブル等の行動や習慣に関連する行動嗜癖があります。これらは、特定の物質や行動を続けることにより脳に変化が起きることにより症状が引き起こされる病気で、本人のこころの弱さのために起きている現象ではありません。

https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_dependence.html

 

どうやら私は登山依存症らしい。登山という特定の行動をやめられなくなっているようだ。 山に行きすぎたせいか、28歳にも関わらず結婚の兆しが見えないので、人間関係に悪影響を及ぼしている点も否定できない。私の心の弱さが招いているわけではないとのことで安心するが、病気らしい。病気なら治さなくてはならないが、「登山がやめられないんです」と病院に行っても相手にされない気がするので、原因と対策は自分で考えてみることにしよう。

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登り切った先で死ぬほどつらかったことは忘れてしまう

 

カニズム

やめられなくなる脳の仕組みは以下のとおりである。

脳には、美味しいものを食べる、試験に合格するなどによって快感や幸せを感じる機能があります。これは、行動嗜癖が生まれるプロセスに重要な役割を果たしています。ギャンブル等を行ったり、依存物質を摂取したりすることにより、脳内でドーパミンという神経伝達物質が分泌されます。ドーパミンが脳内に放出されることで中枢神経が興奮して快感・多幸感が得られます。この感覚を脳が「報酬(ごほうび)」と認識すると、その報酬(ごほうび)を求める回路が脳内にできあがります。
しかし、その行為が繰り返されると次第に「報酬(ごほうび)」回路の機能が低下していき、「快感・喜び」を感じにくくなります。そのため、以前と同じ快感を得ようとして、依存物質の使用量が増えたり、行動がエスカレートしたりしていきます。また、脳の思考や創造性を担う部位(前頭前野)の機能が低下し、自分の意思でコントロールすることが困難になります。特に子供は前頭前野が十分に発達していないため、嗜癖行動にのめり込む危険性が高いといわれています。

https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/__icsFiles/afieldfile/2019/04/05/1415166_1.pdf

 

これを登山に当てはめると、以下のとおりである。

登山(登頂?)→ドーパミン分泌→脳が「報酬」と認識→登山を繰り返す→行動がエスカレート(より危険で困難な山に)

いい感じに当てはまった。行動は脳汁に支配されているらしい。パチンコや競馬にハマっていく仕組みとよく似ている。行動がエスカレートしていく点にも思い当たる節があり、感動や達成感を得られる閾値のようなものが、経験とともにどんどん上がってきていることは間違いない。行動がエスカレートしていくと、失うものがお金ではなく命となっていく点で、パチンコや競馬よりもたちが悪いと言える。

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天気による景色(報酬)のランダム性も依存症の原因のひとつかもしれない

 

背景

同じ行動をしてもすべての人が依存症に陥るわけではない。一般的な背景は以下のとおりである。

 

行動嗜癖に陥る背景には、ストレスなどの心の問題があると言われています。これは、ニコチン、アルコール、薬物などの物質依存に陥る背景とも共通しています。ギャンブル等やゲームなどにのめり込まないようにするためには、これまで喫煙、飲酒、薬物乱用防止教育でも行われているように、ストレスに対する適切な対処方法を身に付けることが大切です。ストレスへの対処には、ストレスの原因となる事柄に対処すること、ストレスの原因についての受け止め方を見直すこと、友達や家族、教員、医師などの専門家などに話を聞いてもらったり、相談したりすること、コミュニケーションの方法を身に付けること、規則正しい生活をすることなどいろいろな方法があり、それらの中からストレスの原因、自分や周囲の状況に応じた対処の仕方を選ぶことが大切です。また、 自分の強みや得意なことを知り、それらを活用して目標を掲げ、達成に向けて努力することも大切です。努力した結果、充実感を体験し、新たな目標に向けて挑戦するはずみになります。そうした体験を繰り返すことにより、自己肯定感を高めることができ、行動嗜癖に陥らない生活習慣を身に付けることができます。

https://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/__icsFiles/afieldfile/2019/04/05/1415166_1.pdf

 

ストレスの存在は否定できず、以前の記事のように登山によるストレス解消効果には絶大なものがあるが、私を含め多くの登山者はストレスがなくても山に行きそうである。また、登頂という目標を掲げ達成に向けて努力している人も多い。登山の特性上、その高くなっていく目標が、より危険で死に近づいてしまうだけである。依存症に陥る一般的な背景とはややずれているかもしれない。

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より厳しい条件で危険なところに

 

治療法

行動嗜癖薬物療法が行われていないらしい。そのため治療法は心理療法に限られるが、心理療法はセラピストと話すことによる治療であるため、登山を理由に病院へ行っても相手にされなそうな現状を鑑みると、心理療法も現実的ではない。ではどうすればいいのか。改めて依存症の定義に立ち返ってみると、

 

日々の生活や健康、大切な人間関係や仕事などに悪影響を及ぼしているにも関わらず

 

という一節がある。悪影響を及ぼさなければ依存症ではなく治療の必要もないわけだ。生活、健康、人間関係、仕事を完璧にこなせていれば、考えなくていい問題である。どこからが完璧にこなせていると言えるのかは分からないが、今のところ支障は出ていないし(結婚できなそうな点は除く)、私にとってこの4項目はすべて登山と密接に関わってしまっている。むしろ登山を排除すると人生に問題が出てきてしまう。つまり私はもう取り返しがつかないところまで来てしまっているわけで、山で事故を起こして人生への悪影響を及ぼさないことに全力を尽くすことにする。

まだ取り返しのつくところにいる人たちは気を付けてほしい。私を含めて登山者たちは、「最高の気分が味わえるよ」「スッキリするよ」「ダイエットに効くよ」と、言葉巧みに登山に誘ってくるからである。登山者たちは登山があったほうが人生が豊かになると盲信しているため、仲間を増やそうと必死である。No!と断る勇気を持とう(私はこれからも勧誘を続けるが)。

山の乱用はダメ。ゼッタイ。