岩石の違いによる山の特徴を紹介するこのコーナー、第2回は火山の島日本に特徴的な玄武岩を紹介していく。
第1回:花崗岩編
第3回:蛇紋岩編
玄武岩について
まずは玄武岩のことをことを知っておこう。玄武岩は黒っぽい岩で、白い斑点があることが多い。マグマが地上近くで急激に冷えて生まれた岩石だ。急に冷えたことによりそれぞれの鉱物はあまり成長しておらず、粒の大きさにもバラツキがある。
冷え固まって玄武岩となる溶岩は粘り気が小さくサラサラしている。そのため、山の割れ目から流れ出るような穏やかな噴火をし、爆発的な噴火はしないことが多い。ハワイのキラウエア火山が有名だ。
地上での分布は火山のある場所に集中しているが、海底の地殻はすべて玄武岩により形成されているため、海底にはだいたいこの岩石がある(表面は別の岩石や堆積物に覆われている)。
鉱物について
玄武岩に入っている鉱物を紹介する。細かい話なので読み飛ばしてもらっても構わない。玄武岩を構成する鉱物は主に、輝石、かんらん石、斜長石の3種類だ。大きく育った鉱物はあまりないため、これらを肉眼で区別することは難しいが、ルーペやデジカメのマクロ撮影機能等を使えばそれぞれの鉱物を区別することができる。
輝石は火成岩(マグマが冷えて固まった岩石)や変成岩(あとから熱や圧力を受けて性質が変わった岩石)に代表的な鉱物だ。色は黒色、褐色、緑色、白色とバリエーションに富んでいるほか、似ている鉱物も多いため、岩石中の輝石を肉眼で区別するのは難しい。限られた高圧条件でできた輝石は翡翠と呼ばれ、非常に人気のある宝石である。日本では北アルプス北部に分布しているものが有名で、新潟県糸魚川の河口付近では、運がよければ翡翠の欠片を拾うことができる。大雨のあとが狙いめ。
かんらん石はオリーブ色でコロコロした形の鉱物だ。玄武岩に含まれる量はあまり多くないが、透明感があるので入っていると分かりやすい。大きく育ったかんらん石はペリドットと呼ばれる宝石となる。また、風化変質したかんらん石は蛇紋石という鉱物になり、そのうちの一部の種類はアスベストと呼ばれ、かつては工業製品の材料としてよく使われていた。しかし、発がん性が問題となり、現在は製造・使用が禁止されている。岩石中で自然発生したアスベストにも処分に対して規制がかかるため、たびたび土木工事の障害となっている。
斜長石はだいたいの岩石に含まれ、地殻を構成する鉱物の中では最も多く入っている鉱物だ。色は白色〜無色のものが多く、玄武岩中では白い斑点として見られることが多い。玄武岩中に含まれる割合はそんなに多くないため、花崗岩中の風化した斜長石ように、陶器の原料として使われることはない。
山の特徴
玄武岩のことがなんとなく分かってきたところで、本題の山の特徴の話に移る。
礫が多い
玄武岩の山の多くは活動的な火山だ。そのため、噴火して出てきた溶岩が固まってできた軽石(気泡が抜けたあとのある隙間だらけの石)が存在することが多い。軽石は転がりやすく、軽石の礫が登山道を埋め尽くすこともある。足を取られやすいので、上りも下りもけっこう大変。
谷が浅い
固まって玄武岩となるような溶岩は流動性が高く、さらさらしている。そのため低いところに流れていき谷を埋めるため、山がきれいな三角錐になることが多い。谷の深さはその山が今のかたちとなってからどれくらい時間が経ったかの指標となる。富士山や浅間山が今きれいな円錐形なのもこれが理由。また、流れ出た溶岩は山の裾野を広げ、大きくなだらかな山を作り出す。
磁性が強い
玄武岩は鉄分を多く含んでいるため、弱い磁力を帯びている。立ってコンパスを使っていて影響が出るようなレベルではないが、コンパスを密着させると多少影響を受けるため、岩の上に地図を置いて読図をしないほうがいい。コンパスが狂うという迷信のある樹海も玄武岩でできており、岩にコンパスを密着させると針が多少揺れる。ただしコンパスが狂うような強い磁力ではない。
水がおいしい
玄武岩は溶岩が急激に冷え固まってできた岩石であり、冷却時の体積減少や気泡に伴い隙間だらけになる。その隙間に水が染み込むほか、噴出したマグマがあった場所に空洞ができることも多く、玄武岩の山は地下水が豊富なことが多い。地下水は数百年の時を経て地上へと湧き出したりする。富士山麓の忍野八海なんかが有名だ。また、溶岩由来のため岩石中に有機物が含まれておらず、水に雑味が入りにくい。ただし玄武岩の地下水には鉄やマグネシウムなとの金属成分が多く含まれるため、花崗岩等の水と比べると少し雑味が入る。成分としてはミネラルウォーターに近くなるが、カルシウムはそんなに多くないため硬度は高くない。増えてしまった金属成分を逆手に取り、バナジウム天然水として売り出していたりもする。
山は地質と気候に支配されている
山の形も植生も、山のすべての要素は地質と気候をベースにしているため、岩にも目を向けると山への理解がより深まる。地質学は非常にとっつきにくい分野だが、少しでも興味を持つきっかけになると嬉しい。