ジャンダルムで揺れた鎖の音

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山と地質と街道とフィルムカメラのブログ 月1回更新

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人を登山の沼に沈める6ステップ

私はすべての人が山に登ったほうが幸せになれるという思想の持ち主である。よって山に登ってみたいという友人がいたら、いや登りたいといっていなくても、積極的に山に連れていくようにしている。そのような活動を関東で10年ほど続けた結果、人を効率的に登山という沼に沈める手法を確立したため報告する。

※この記事は関東居住者向けである。

※()は実施する時期の目安である。2か年計画になっているが、あくまで目安であり1か年や3か年で実施しても問題ない。

 

ステップ1:高尾山か筑波山に登る(4〜5月)

とりあえず登ってみることから始めてもらう。高尾山か筑波山であれば、対象者が普段運動をしていない人でも、問題なく登ることができる可能性が高い。ケーブルカーやロープウェイは使わない想定だが、なにかあっても下山に使うことができる。

引率者はバーナー等を持っていって、できる限り対象者を接待することに努める。引率者の大部分は忘れてしまっている可能性が高いが、山頂で食べるカップラーメンはおいしいものである。

装備は買ってもらわなくてよい。普通のジャージや運動靴で構わない。参入障壁を設けないようにすること。ただしその状態では雨に対応することができないため、天気が少しでも悪くなりそうな場合は延期する。

下山後の温泉等のリサーチも行っておく。登山=楽しいもの、というイメージを刷り込むことが重要である。第一印象は少しでもいいものにしよう。

ちゃんと接待しよう

 

ステップ2:金時山か三ツ峠か大菩薩嶺に登る(5〜6月)

ステップ1よりも歩く距離がやや長い山となる。ステップ1で挙げた山はもはや観光地であるが、これらの山は登山目的の人しか訪れないため、登山の雰囲気を知ることができる。そのうえでこれらの山はどれも景色がよく、富士山がきれいに見える。知っているものがきれいに見えるため、景色としてもわかりやすく、「富士山がきれいに見えた」という言葉にしやすい思い出となる。

ステップ2は対象者の体力テストも兼ねる。これらの山に問題なく登れるようなら、ステップ3に進んで問題ない。ステップ2の山で疲労困憊になるようであれば、ステップ3に進むのはやや危険である。

ステップ1と同じく装備はまだ買ってもらわなくてよい。これらの山はまだ本格的な装備でなくとも危機的状況にはなりにくい。ステップ1と同じく、その状態では雨に対応することができないため、天気が少しでも悪くなりそうな場合は延期する。なお、この段階で対象者が装備購入を希望することもあり、その場合は積極的に買ってもらう。ステップ3以降を踏まえた装備を買ってもらうこと。この段階で対象者が自力で装備の判断をすることは困難であり、引率者にはアウトドアショップへの同伴を勧める。

三ツ峠からの富士山

 

ステップ3:立山木曽駒ヶ岳に登る(7〜8月)

ロープウェイやバスで森林限界を超えられる山にいく。これらの山は労力に対して、とにかくいい景色を見ることができる。このステップでたいていの人は山にハマる。ただし、森林限界を超えているぶん、天候が荒れると地獄をみる。ここも必ず晴れている日に行くようにする。

ここでもまだ装備を買ってもらう必要はない。ただし下山時のロープウェイやバスに乗る前に、これより高いレベルの山にいきたければ装備を買ってほしいと伝える。立山木曽駒ヶ岳の景色をみていれば、だいたいの人は装備を買う気になる。また、このタイミングで伝えることで、対象者は帰りのロープウェイやバスで周りの登山者の装備を観察することができる。「こんなやつを買いたい」というイメージを持ってもらいやすくなる。

立山の景色

木曽駒ケ岳の景色

 

ステップ4:装備を買う

装備を買ってもらう。優先するのは靴と雨具である。これらがあれば多少の雨にも対応できるようになるためだ。ステップ3までを問題なく登れていれば、装備が欲しくなってきているはずである。お金を使ってもらいコンコルド効果(ある対象への金銭的・精神的・時間的投資をしつづけることが損失につながるとわかっているにもかかわらず、それまでの投資を惜しみ、投資がやめられない状態を指す。wikipediaより引用)が起きる心理状態へと誘導する。引率者にはアウトドアショップへの同伴を勧める。

私が学生時代に所属していた登山サークルでは、入部の段階で10万円を用意させられ、装備を一通りそろえる必要があった。ほかの一般的な運動系のサークルと比較し退部率が低く、退部したとしても登山を続けている人が多かったため、コンコルド効果が働いていると考えられる。一方で登山を始める前から高い投資を求めると、そもそも始めない人も多い。登山人口を増やす観点からは、装備を買ってもらうのは、ある程度登山を行った段階がよいと考える。

ステップ3の山で周りの登山者を観察しておいてもらう

 

ステップ5:谷川岳金峰山に登る(9〜10月)

今までとは異なる景色をみせる山に登る。山の多様性を示すことで、いろいろな山にいく意味を知ってもらう。紅葉の時期と合わせられるとなおよい。

この段階ではいままでよりも候補地を数多く挙げることができる。紅葉の時期や天候、対象者や引率者の希望に応じて調整する。候補地の例は下記の通りである。

ステップ5では、多少の雨が降っても決行する。ステップ4で雨具を買っているため、雨具を使うということも対象者にとっては成功体験としてカウントされる可能性が高い。来年度以降も見据えると、多少の雨にあたっておく経験も必要である。もちろん危険なレベルの雨では行かないこと。

 

その他の候補地

瑞牆山

那須岳

苗場山

蓼科山

初冬の谷川岳

 

ステップ6:燕岳や白馬岳に登る(翌年の夏)

小屋で1泊する山に登る。燕岳や白馬岳は小屋が比較的きれいなため、初の小屋泊にうってつけである。小屋泊をすると夕焼けや星空、日の出を見ることができるため、さらに山にのめり込ませることができる。その他の候補地は下記に挙げておく。危険個所が少なく、小屋の前からの景色がいい場所をピックアップした。

なお、翌年に実施した場合、夏にいきなりこれらの山に行くと体力的に問題が発生する可能性があるため、春先にステップ2やステップ5で示した山へ登っておくこと。

 

その他の候補地

唐松岳

常念岳

鳳凰

・白山

燕岳の小屋の前からの明け方の景色

 

以降

これ以降はもう好きに登ってもらえばよい。複数泊の縦走、テント泊、雪山、トレラン、山の料理など人によってやりたい方向性が異なってくるであろう。なにをやるにせよ、もう引き返せないところまできているはずだ。

あとは勧誘された人が勧誘を繰り返し、ピラミッド状に登山者が増えていく。それぞれが2人以上に広めることによって、27世代後には日本人全員が登山者となり、33世代後には人類全員が登山者となる。さあ、人類総登山者化計画を始めようではないか。