ジャンダルムで揺れた鎖の音

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山と地質と街道とフィルムカメラのブログ 月1回更新

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徒歩の旅をすると戒律ができる【徒歩東海道実践編②】

実践編①はこちら

 

2年が経った。

前回東海道を途中まで歩いてからの経過時間である。この2年で私は学生から社会人になり、生活が大きく変わった。一番大きく変わったのは休みの価値だろうか。学生時代のなんと休みの多かったことか。貴重な休みに東海道を歩いている場合ではない。しかしこの2年で残りの東海道はずっと心の片隅にのしかかり、どんどん重さが増していた。歩きたいというより、一度始めてしまったから歩かないといけないという義務感のようなものだろうか。とにかくこのままでは心の引っ掛かりがとれない。気づけば貴重な4連休に浜松までの新幹線の予約をしてしまった。前回のようなわくわく感はもうあまりない。休みの過ごし方はこれで合っているのだろうかと考えながら、新幹線に乗る。

前回離脱した地点の最寄り駅で降りた。いきなり雨である。ちょっとキレそうになるがまだ早い。そんなことに負ける私ではない。愛知までの280kmで精神力はだいぶ鍛えられている。降りた駅から東海道まではやや距離があったため、30分ほどかけてやっと前回離脱した地点に戻ってきた。感慨深い。ゲームの続きから始めるを押す気分である。さあ再開だ。すぐにトラックに水を引っかけられた。ちょっとキレた。どうやら東海道を歩き切らないことには強靭な精神力を手に入れることはできないらしい。

 

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新所原駅、大雨

前回の反省を踏まえ、今回は自分に厳格なルールを課した。書き出してみようと思う。

 

1.走らない

2.歩道と車道のあいだの斜め部分を踏まない

3.左車線側の歩道を歩く

 

新興宗教の戒律のようになってしまった。前回の足の痛みの大きさから、足に負担のかかることを完璧に把握することができた。その結果導き出されたのが1と2である。走ると負担が大きいことはなんとなく分かると思う。痛覚的には通常の歩行と比べて5倍程度の負担があった。2はなにを言ってるのかよく分からないと思うが、とにかく斜面に足を置かないことが重要である。痛覚的には3倍程度の負担だろうか。このような、ちまちまとした努力を一歩一歩積み重ねることによって、足首と膝の炎症を防ぐことができる。そこまでして歩く必要はないが。

3はトラックからの向かい風を受けないようにするためである。体力の温存としての意味もあるが、精神的な疲労を減らすためという意味合いが強い。向かい風は精神力を削る力が非常に大きい。試しに扇風機に向き合いながら勉強でもしてみてほしい。すぐに心が折れるはずだ。理想は無風だが、後ろからの風にすればかなり楽になる。そこまでして歩く必要はないが。

 

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左車線側を歩く

そして歩き続けるために最も重要なことは、変化を減らすことである。歩くペースやフォームを絶対に崩さないこと。どこかが痛くなってきてもそれを無視して今まで通り歩くこと。変化させると身体への負担が偏り、取り返しのつかないダメージとなって歩けなくなってしまう。足のマメなんかの小さな痛みは無視しても大ダメージとなることはない。庇って歩き方を崩すと関節等を痛め歩けなくなる。たびたび伝えているが、そこまでして歩く必要はない。

 

街道歩きを人に話すと「どうしてそんなことするの」とよく聞かれる。はじめは歴史を知るとか、自分の限界を試すとか、大層なことを考えていたような気もする。それらの理由も消えてなくなったわけではないが、一番大きな理由かと聞かれるとそうでもない。答えになるかわからないが、「始めてしまったから」が現時点で自分のなかに見つけることができた一番大きな理由だ。途中で辞めたら自分のことを許せなくなるのだ。足の痛みや疲労よりも、途中で辞めたことによる精神的苦痛が、よりつらく見えてしまったのだ。やる必要のないことだからこそ、100%自分の納得できる方法で目的に辿り着かないと意味がないのだ。人から強制される苦痛なんてまっぴらごめんだ。誰よりも自由に苦痛を選択したい。自分で選択したことならば耐えられる。

 

そんなことを考えているうちに、とうとう京都に到着した。途中で昔は海路だった区間である七里の渡しも歩いてしまったので、昔の人より27キロほど長く歩いているが、それを差っ引いても昔の人よりは楽な道のりだろう。平らで足への負担が少ない舗装された道も、お腹が空いたら寄れるコンビニも、当時はなかったのだから。

そして東海道を歩ききってしまったが故に、五街道が見えてきてしまった。もう思ってしまったので逃げられない。いつか必ず歩き始めることになりそうだ。さあ、翌日は仕事だ。早く帰らないと。東海道を歩いてかかった時間は8日17時間。帰りは新幹線に乗って2時間。かがくのちからってすげー!

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終点の三条大橋