ジャンダルムで揺れた鎖の音

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山と地質と街道とフィルムカメラのブログ 月1回更新

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現代社会は地面が硬すぎるので長く歩けない【徒歩中山道④】

③はこちら

gendarmes.hatenablog.com

4日目

中山道はまだまだ残りが長い。間に合わない感が強くなってきたので、睡眠時間を前日よりもさらに1時間削って6時間としてみた。少し眠い。

いつものことだが、足の裏が痛くなってきた。正確な表現をすると、すべての指の根本のあたりの骨が軋んでいる感じだ。これは街道歩きの3日目や4日目あたりでいつも起こっているお馴染みの痛みである。膝や足首の痛みは繰り返すことによってどんどん改善し、もう痛くなることはなくなったが、この足の裏の痛みは改善される気配がない。そのため街道歩きの肉体的な限界は足の裏に依存し、ボトルネックとなっている。

足の裏が痛いと立っていても休めている気がしないのでとにかくベンチに座りたくなる

足の裏の痛みには改善の気配がないので、どうも筋力のような成長する項目ではないようだ。人類の限界感がある。しかし、膝や足首などの可動部パーツの強度に対して、あまり動かない足の裏というパーツが先に壊れるのは、設計的にどう考えても間違っている。なぜこうなるのか。

手がかりとしてひとつあるのは「足の裏が痛くなくなる地面がある」ことだ。それは未舗装の山道である。筋力的には斜面を歩くとつらいのだが、足の裏はあまり痛くなくなることが、私のなかで経験的に知られている。これは道の傾斜ではなく、地面の硬さに起因している現象だと考えられる。舗装されている坂だと、傾斜により足への負担が大きくなり、足の裏の痛みも増すためだ。

未舗装だとあんまり痛くない

地面の硬さの違いによって、足への負担はどのくらい変わってくるのだろうか。私は物理がまったく分からないので、このテーマが検討されている論文を丸々引用する。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejpe/72/3/72_I_37/_pdf

アスファルトは土と比較し約3倍の衝撃があるようだ(※ただし柔らかすぎる地面だとむしろ歩きにくかったり、すべりやすさも影響を与えたりと、一概には言えないことに留意する必要がある)。そして人類はこれほどの硬さの地面を長く歩くという経験がおそらくない。設計段階の想定使用条件から外れているのだ。よって同じ条件のままでもっと長く歩くのは厳しい気がする。なにか条件を変えなければならない。連続歩行距離をもっと長くするための現時点での案は以下の2つだ。

1. クッション性のいい靴を履く

2. 未舗装路を歩く

1に関しては、次回はもっとクッション性のある靴を使ってみようと思う。今回は買ってから7年ほどたっている普通のランニングシューズだったので、クッション性が高いとはいえない状況だった。

履いていたランニングシューズ

2に関しては、日本で街道歩きをしている限り、長い距離を未舗装路で歩き続けるのは難しい。ただし海外では可能性があるだろうし、日本であっても山でロングトレイルを歩くぶんには可能性がありそうだ。山地のほうが意外と長い距離を歩け続けることができるかもしれない。

いずれにしろ現代社会は地面が硬すぎるので長く歩けないのである。現代社会は歩くことがシステムに組み込まれていないのだ。冒険家の角幡唯介さんの言葉を借りれば、歩くことも「脱システム」かもしれない。私の冒険のレベルは圧倒的に低いけど。

 

―4日目歩行距離:約58km (鵜沼~柏原)―

 

 

5日目

睡眠時間をさらに削って5時間としてみた。けっこう眠い。街道歩きのなかの感覚的な話だが、睡眠には肉体的な損傷の回復と精神的な疲労のリセットの2つの機能がある。精神的な疲労のリセットは5時間でも十分行われるようで、特に支障はなかった。どれくらい短くしても大丈夫なのかは今後実験してみる必要がありそうだ。ただし、肉体的な損傷の回復は間に合っていない感じがする。単純に足を止めている時間が短いからか足の疲れがいつもより大きい。

滋賀に入ってからこんな細い道を時速60km程度で飛ばす車が多くてこわかった、精神的な疲労を助長する

中山道草津宿東海道と合流する。草津から京都までの約20kmは共用区間だ。よって私は東海道の際に既に歩いたことのある区間となるが、せっかくなので京都まで行きたいと思っていた。しかしあんまり時間がない。本日中に東京まで戻るためには、21:38京都発の新幹線が最終となる。20kmを進むためには4〜5時間が必要であり、遅くとも17時には草津宿に到着していなければならない。

結果的には、草津宿17時には間に合わなかった。草津宿到着は18時ごろだった。あと1時間なら頑張れば短縮できた気もするし、いま思えば睡眠時間をあと1時間削ればよかったかもしれない。翌日の午前に絶対に会社に行かなければいけなかったかというと、そんなこともない。ただし草津宿に着いたときには「もういいかな」という気持ちになってしまっていた。17時に着いたところでこの先に進んでいたかはわからない。

草津名物の天井川をくぐるトンネル、この先で東海道と合流する

街道歩きを始めたころだったら、おそらく無理をしてでも京都まで行っていただろう。自分のなかでの目的が「到達」から「歩くこと自体」にシフトしているようだ。まあ少なくとも草津までは行こうとしているので完全にシフトしているわけではなく、到達の目的のほうが大きいままではあるのだけど、内訳が少し変わったと思う。

目的のシフトの根拠としては、草津到着の前にアドレナリンが出なかったことが挙げられる。到達への思い入れが強いとゴール間近でアドレナリンが出ることは、過去の街道歩きで数々の事例がある。今回の旅は一度に歩いた距離が過去の旅のなかで最長であり、到達への思い入れが強くなりやすい状況であった。しかし草津到着の直前でアドレナリンは出なかったのだ。

ということで割と落ち着いたまま草津に到着した。東海道との合流地点は、5年前に見たことのある景色だ。これで五街道をすべて歩いたことになる。落ち着いたままとはいえ、やはり嬉しいし、片付いたことに対する清々しさがある。

合流地点の碑

ただし歩くこと自体が目的となっているのを自覚したため、今後も定期的に長く歩くだろう。それは家の周りでぐるぐる歩くだけでもいいかもしれないが、どうせ歩くなら歩いたことのない街道を歩きたい。五街道の合計1500kmを経てようやく私は歩くことの楽しさを少しだけ知ったのだ。得たものはそれだけだが、それがすべてである。

 

―5日目歩行距離:約57km (柏原~草津)―

5日間の総歩行距離(下諏訪~草津):約297km

所要時間:105時間=4日9時間(睡眠・休憩含む)