梅雨は天気予報が当たりにくい。そんなイメージを持つ人が多いと思う。降ったりやんだりを繰り返し、ずっと降っている予報だったのに意外と降っていなかったりする。その逆もしかりだ。ただその印象で天気予報がいつも当たらないものだという印象を持たれるのは悲しい。私は仕事で気象予報をしているわけではないが、資格としての気象予報士を持っている。そのため登山に行く際はたいてい私が予報をすることになるのだが、予報を外すと同行者の怒りを買う。よって今回は天気予報が苦手とする天気を提示し、「このときは勘弁してくれ」の状態を知っておいてほしいという個人的な言い訳である。
梅雨/秋雨 (停滞前線)
気団(一定の気温や湿度などの性質をもつ空気のかたまり)がぶつかってできる前線である。季節の変わり目にできることが多い。気団の押し合いで南北にいったりきたりするため、その動きを予報することが非常に難しい。特に1週間先の天気を予報することは不可能に近く、ずっと雨予報だったのに梅雨が明けたりする。ちなみに停滞前線は雨が降る範囲は広いものの、前線本体から離れれば雲の高さが高い。そのためそれなりに高い山で雨が降っていたとしても、霧に覆われず視界がきくことがある。
https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/wxchart/quickdaily.html?show=20220620
台風
最近AIが流行っているが、天気予報はAIが流行り始めるよりもはるか昔から機械学習を用いて予報をしている。機械学習は仕組みとして過去に似た状況があればあるほど予報精度が上がっていく。逆を言えばデータが少ない天気ほど的中が難しい。台風は本土への平均的接近数が年に5.8回にとどまっているため、データが圧倒的に足りないのだ。特に台風が複数発生し相互に影響を及ぼすと(藤原の効果)、そのようなデータの蓄積が少なすぎて、予報は困難となる。
雷雨 (積乱雲)
雷雨は規模の小さい気象現象である。なにを言っているんだこいつは、と思うかもしれないが、水平規模およそ10km、時間的にみれば2〜3時間しか持続しない積乱雲は、水平規模が数百〜数千kmの前線や低気圧に比べて、圧倒的に規模が小さいのだ。規模が小さすぎて予報できる解像度の限界を超えてしまうため、このエリアで雷雨の危険が高いことまでは予報できるものの、自分がいる点で雷雨が起こるかまでは分からない。ただし最近は、コンピュータの発達により気象予報の解像度(格子点)がどんどん細かくなってきており、精度が上がってきている。
雪と雨
これもデータの蓄積の問題が大きい。降水量はアメダス観測機器というもので観測しているのだが、降雨と降雪の区別がつかないため、気温が微妙なときはどちらが降っていたかデータが残っていないのだ。積雪すればデータとして残るのだが、微妙な気温のときは地面で溶けていくためこれもデータとして残らない。また、雪と雨の線引きがかなりシビアというのも理由の一つだ。例えば関東を例にあげると、東京では雪、川崎ではみぞれ、横浜では雨のことがある。この線引きをぴったり当てるのは困難である。なお最近は、Twitterのつぶやきから雨と雪の分布をマッピングする試みが行われている。
日本海側の冬
冬の日本海側でみられる筋状の雲は、その下で雪や雨を降らすが、幅が数km程度と非常に狭い上に、少しの風向きの変化で位置が変わるし消えたり発生したりする。10分おきに晴れたり吹雪になったりするし、同じ景色のなかでも雪と晴れが混在することもあり、細かな予報は不可能である。屋久島のように湿った風が山にぶつかり雨が降るような場所も、同じような理由で予報が難しい。ただし積乱雲と同じくエリアや時間を広くとれば、ある程度の予報は可能である。
データの蓄積やコンピュータの発達、予防技術の革新により、予報精度は格段に上がってきている。気象庁の的中率の年平均値は83%で、外れた予報が目に付くのはそれだけ普段の予報が当たっているからだ。だから予報を苦手とする気象条件がちょっとくらいあっても仕方ないよね。と、気象庁の威を借りて言っておく。